私も、1997年製のランドクルーザープラドTXを所有していますが、本当に全然壊れないんです。
「トヨタ戦争」のくだりで心が動いたので、コピペしました。
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6月10日深夜2時30分。新型ランドクルーザー(ランクル)のワールドプレミアが配信された。その発表はたぶん世界的に見てちょっとしたお祭りであった。
しかしながら、あなたのご町内とか、マンションの駐車場におそらくランクルはいない。ランクルは日本の普通のユーザーにとっては決して身近なクルマではないからだ。何となく「その走破性がスゴいらしい」くらいのことは聞いたことがあるかもしれないが、舗装がしっかり整備された都市部で暮らしている人にとって、やはり大きく重く、燃費も悪いクルマで、しかも価格も高い。よっぽどの趣味人でない限り選択肢に入らない。
ランクルというクルマは、それを使う地域と使わない地域でとんでもなく評価が違うクルマだ。
●信頼性という価値
30年以上前、自動車系出版社に入りたての頃に筆者はそれをすり込まれた。「池田なぁ、村もオアシスもない巨大な沙漠をクルマで命懸けの横断をするとして、レンジローバーとランドクルーザーがあったらどっちを選ぶ?」。そう聞かれてハタと思ったのだ。
確かにそれだったらランクルを選ぶだろう。ただ当時のレンジローバーはローバーの名エンジニア「スペン・キング」の手になる初代モデルで、群を抜いた悪路走破性に加えて神々しいオーラを放っていたし、英国ジェントルメンのライフスタイルを象徴するクルマとして喧伝(けんでん)されていた。
いわく、英国流のカントリーライフを楽しむジェントルメンは、成功の証(あかし)として、荘園のような郊外の邸宅(マナーハウス)と農園を手に入れて農耕生活を送ることが嗜(たしな)みであり、時折ロンドンはコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスに観劇に行く時に乗るのがレンジローバーであるといわれていた。
もっとも当のスペンキングは、いやあれは農地で使うクルマだと断言しており、どうやらオペラ云々は欧州かぶれのバブル文化真っ最中の日本で作られたお話らしいのだが。
さてそんなわけで、まだ20代の筆者にはそれが与太話であることなど知る由もなく、ランクルとレンジローバーがカローラとロールスロイスのように見えていたわけだ。それをひっくり返したのが沙漠の横断話だ。
もっとスゴい話もある。1986年、アフリカ大陸中央部のチャドで起きた内戦のうち特定の時期を雑誌「タイム」は「トヨタ戦争」と名付けた。
リビアとの国境付近で起きた武力衝突で、反政府軍を応援するカダフィー率いるリビアはチャド併呑(へいどん)の目論見を成就すべく、チャド正規軍の殲滅(せんめつ)を狙って虎の子の戦車旅団を派遣した。まあ実態は崩壊間近の旧ソ連製のT-54、T-55戦車の中古で、整備不良のひどい代物だったとはいわれているが、その数実に300両。
普通に考えてチャド正規軍に勝機はない。それをひっくり返したのがランクルやハイラックスなどに機銃とロケットラウンチャーを備えた急造部隊400台だった。結果的にカダフィーは自慢の戦車部隊に大損害を受け撤退した。
チャド正規軍は、ランクルとハイラックスの圧倒的な機動性を生かして、戦車に対してヒットアンドウェイ攻撃を繰り返して走り去って行く。その後ろ姿に描かれた「TOYOTA」の文字がタイムのカメラマンによって象徴的に報道され、世界の人々を驚愕(きょうがく)させたわけだ。
●壊れないかの確認ではなく壊すこと
ランクルとハイラックスの話だが、タンドラやタコマだって同じだ。トヨタはこれらのクルマを壊して壊して徹底的にいじめ抜き、鍛え上げる作業を行っている。壊れないことを確かめるのではなく、どこまでやったら壊れるかを確かめるのだ。
一例を挙げれば5大陸走破プロジェクトがある。14年のオーストラリアを皮切りに、翌15年に北米、16年にラテンアメリカ、17年に欧州、18年にアフリカ、19〜20年にアジアという全てのエリアを走り抜く予定だった。現在新型コロナの影響で中国、東アジア、日本を残したところで中断しているが、いったいこれで何をしようというのか?
豊田章男社長自らが唱える「もっといいクルマ」。そのもっといいクルマを作るための手段が「道がクルマを鍛える」というやり方だ。身の回りの限られた環境から「道」を想像しても、おそらくその想像は現実に追いつけない。
急峻(きゅうしゅん)な山岳路で、目もくらむ谷や落石の危機に苛(さいな)まれる道ならば想像しやすいだろう。ひどいぬかるみで車輪がはまりこむような道もおそらくは想像しやすいだろうが、道の険しさはそういう分かりやすいものだけではない。
例えばオーストラリアの無人地帯にある、ただただ真っ直ぐな道路の恐ろしさ。われわれが想像する整備状態とはまったく異なるひび割れだらけの、あるいは時折穴の空いた舗装路を、景色の変化が乏しい中で時速130キロ制限で走る。人の感覚が麻痺(まひ)して覚醒レベルが下がってきたところで、突如路面の穴に襲われる。かと思えば隙を突くように分かりにくいほんの僅(わず)かなカーブがやってくる。われわれの知らない日常がそこにはある。
日本の首都高だってそうだ。ほんの20年前まで、高温多湿かつヒートアイランドで発熱する首都高の渋滞の中で、1メートルも動かずにエアコンを使い続けることに欧州系輸入車は全く対応できなかった。オーバーヒートでエンジンが壊れたり、エアコンが全く効かずに蒸し風呂になったりすることが普通にあった。彼らの知る世界では走ってさえいれば真夏であろうと窓を開ければ涼しい風が入ってくる。そういう常識でクルマが設計されていた。
そういう個性的というか、全く性質の違う過酷さを持った道が世界にはたくさんある。その現実を知らないで、想像だけではクルマは作れない。知らなかった過酷さにぶつけて「壊してみて」初めて本当の意味での限界が分かる。トヨタの5大陸チャレンジはそういう種別の違う過酷な道で、クルマと人を鍛える。人はエンジニアとは限らない。トヨタで働くさまざまな人が世界の道の本当の過酷さを感じ、腹落ちするためにこのチャレンジに参加する。腹落ちすれば、そういう地域で使う人のリスクが自分事になるのだ。知らないことを想像するのとは受け止め方そのものが変わってくる。
●ミスターランクル
実はミスターランクルみたいな名物エンジニアがいるのだが、彼と話していると、頻繁に出てくる言葉がある。それは「必ず帰って来られる」という言葉だ。ほんのわずかな油断が絶望的な状況を招くかもしれない「道」で、何があっても絶対帰って来られる性能を最大限に追求したクルマがランクルだ。彼はこう言う。
「モデルチェンジする時、旧型で走れた場所が新型では走れないということは絶対にあってはいけないんです」
村落の食料や生活必需品の輸送ルートが、ランクルにしか通れない「道」だけで結ばれている場合がある。そのクルマを買い換えた時、旧型でできたからと、いつものつもりで走って、走破できないとドライバーは死んでしまうかもしれない。だから絶対に限界性能は下げてはいけないと彼は強く訴えた。そのミスターランクルは、昨年定年を迎えて後進に道を譲った。図らずも100年に一度の改革のタイミングにである。
今回の新型はさぞや電動化されることだろうと筆者は思っていた。成り立ちからいって燃費の厳しいクルマである。そしておそらく製品ライフも長い。それをコンベンショナルなシステムだけでデビューさせるとは思っていなかった。しかし、彼の言葉を思い出すと、茶色く濁った泥水に車体の半分を浸しながら走る場所で、果たして動力用バッテリーは平気なのだろうか? あるいは崖沿いの崩れかけた隘路(あいろ)で、バッテリーの搭載によって車両重量が極端に増えたら果たして大丈夫なのか?
そういう限界的ニーズに真摯(しんし)に応えるとしたら、それはやはりコンベンショナルなやり方でいくしかないだろう。もちろん気候変動という社会課題は厳然と存在するので、どこかのタイミングで電動化モデルも登場するのかもしれないが、少なくとも世界の中で最も過酷な道が求めるのは今の技術でできる電動化モデルではない。何が通れて、何が通れないかを決めるのは「道」なのだ。
余談だが、筆者がすでに何度か書いている通り、10年前、つまりトヨタの製品クオリティがおかしくなっていた時代も、ランクルだけは例外だった。それは絶対に性能をトレードオフできないというランクルの特殊事情があったからだと思う。
●GA-Fプラットフォーム
ということで、われわれがランクルに期待すべきは、絶対に生きて帰って来られる性能が死守された上で、どれだけ快適になったか、あるいは楽しくなったか、環境に良くなったか。そういうことだろう。
期待すべきは、ラダーフレームにもようやくTNGA世代がデビューしたことだ。GA-Fプラットフォームだ。このニューシャシーの採用によって、高剛性化、低重心化、重量配分の適正化、サスペンション構造の改善など多くのメカニカルな進化をもたらしつつ、フレームと車体を合わせて200キロの軽量化を果たしているという。
そしてパワートレインも新設計になった。従来のV8に替えてV6ツインターボの3.5リッターガソリンと3.3リッターディーゼルである。もちろん動力性能はV8を凌駕(りょうが)している。2気筒減った分フリクションも減るはずだが、それにダイレクトシフトの10段ATを組み合わせて燃費を改善しているという。
こうした新しいランクルの発表を「ランクルじゃなきゃダメなんだ」と強く信じる世界中の人々が、ある種のお祭りのように受け止めたことは、ここまで説明すればご理解いただけたと思う。
(池田直渡)
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